◆The bottom of The sky◆
「おいで。」
すっ、と腕を差し伸べると、従順なそれはかすかな羽音だけを立てて私の指にとまった。
ピピッ・・・
やはり、控えめな鳴き声。それは、鳴き声ではなく姿を美しくするための改良を施されたものだから、その代償なのかもしれない。しばしそのカナリア色の美しい小鳥をながめていた私だったが、やがて無言で小鳥を留めたままの腕を空へ振り上げた。
バサッ・・!
軽い羽音と共に、小鳥が空に舞い上がる。このまま帰ってこなければいい、と私は思った。私では抜けられない格子の隙間も、小さな小鳥ならすりぬけられる。
だが――――――
ピピピピッ!!
小鳥は、一時格子の外に抜け出たが、すぐに空の高さにおびえたように格子の中に戻ってきてしまった。
「・・・はぁ。」
私はため息と共に外を見やった。
華麗な細工のなされた銀の格子、その向こうにあるのは、森の緑でも壁の白でも地の黒でもなく、ただ空の青だけだ。
バベルの塔を思い出させる、地上で一番高いビルの、その一番上。そこに、銀の鳥籠があり、その中に私と無数の鳥たちが入っていた。おそらく私を此処に閉じ込めた人間達は、私の無聊を慰めるために私の仲間に似た鳥たちを入れたのだろうが、それは私をさらに落胆させただけだった。
小鳥たちは、おびえる。あまりに高い空の上に。飛ぶための翼を持つ身でありながら、私にはそれがなんとも歯がゆかった。
そして、寂しかった。ココには、私の仲間など誰もいないのだと突きつけられたようで。
地上で、最も高いビルの上。しかし、其処でさえ私にとっては空の底でしかありえないのだ。地にほど近いところしか飛べぬ鳥も、地を離れることのできぬ人間も、私にとっては同じ獣にすぎなかった。
空の底で、空を見上げる。そこに、自分の世界は見えなくて――――・・・
私は、背に生えた白い翼をいらだたしげに羽ばたかせた。
◆END◆
◆後述◆
訳すれば“空の底”(のはず)
天使にしては考えがあまり清くない彼女。