The bottom of The sky

 

 

「おいで。」

すっ、と腕を差し伸べると、従順なそれはかすかな羽音だけを立てて私の指にとまった。

 

ピピッ・・・

 

やはり、控えめな鳴き声。それは、鳴き声ではなく姿を美しくするための改良を施されたものだから、その代償なのかもしれない。しばしそのカナリア色の美しい小鳥をながめていた私だったが、やがて無言で小鳥を留めたままの腕を空へ振り上げた。

 

バサッ・・!

 

軽い羽音と共に、小鳥が空に舞い上がる。このまま帰ってこなければいい、と私は思った。私では抜けられない格子の隙間も、小さな小鳥ならすりぬけられる。

だが――――――

 

 

ピピピピッ!!

 

 

小鳥は、一時格子の外に抜け出たが、すぐに空の高さにおびえたように格子の中に戻ってきてしまった。

 

「・・・はぁ。」

 

私はため息と共に外を見やった。

華麗な細工のなされた銀の格子、その向こうにあるのは、森の緑でも壁の白でも地の黒でもなく、ただ空の青だけだ。
バベルの塔を思い出させる、地上で一番高いビルの、その一番上。そこに、銀の鳥籠があり、その中に私と無数の鳥たちが入っていた。おそらく私を此処に閉じ込めた人間達は、私の無聊(ぶりょう)を慰めるために私の仲間に似た鳥たちを入れたのだろうが、それは私をさらに落胆させただけだった。

 

小鳥たちは、おびえる。あまりに高い空の上に。飛ぶための翼を持つ身でありながら、私にはそれがなんとも歯がゆかった。
そして、寂しかった。ココには、私の仲間など誰もいないのだと突きつけられたようで。

 

地上で、最も高いビルの上。しかし、其処でさえ私にとっては空の底でしかありえないのだ。地にほど近いところしか飛べぬ鳥も、地を離れることのできぬ人間も、私にとっては同じ獣にすぎなかった。

 

空の底で、空を見上げる。そこに、自分の世界は見えなくて――――・・・

 

 

私は、背に生えた白い翼をいらだたしげに羽ばたかせた。

 

 




END

 

 

 

 

 

 

◆後述◆

訳すれば“空の底”(のはず)
天使にしては考えがあまり清くない彼女。