空の果てには楽園があって
≪ スカイ・ブルー・スカイ ≫
青く遠く澄んだ空。真下にぽつりと薄墨の影。
青く高く凪いだ空。雲も鳥も飛ばぬのに?
否。
「ああ、やっぱりココか」
空の下には一人の少女。
屋上の白いコンクリに、薄墨色の髪を広げ。ぽつり、其処に倒れている。
か細い体に白い包帯。薬と鉄錆の匂いがほのかに香るそれは、整えられた容貌の半分までを覆い。
残された右眼。それは空を映してすなわち“空”。
「よっ、と」
少女の隣に、少年が一人、腰をおろした。
「・・・・・・あー・・・。
今日も、良い天気だなぁ?」
沈黙。すら、返ってはこない。
数秒後、少年を慰めるような柔らかい風が吹いて、彼はようやく吐息をついた。
「なんつーか・・・
まあ、分かっちゃいたけどよ?」
空を見上げる。
同じ青い空の下、少女が独り、少年が一人。
二人とも一人。
決して同じ世界には立てない二人。
「・・・・・・」
沈黙は、一人だけのもの。
同じ空を見上げて、同じ風に吹かれて。傷さえも似通っているはずなのに。
それでもココには、一人と一人。
だって。
「なぁ、本当にお前はいっちまったんだな。」
空に放たれた言葉に、答えは決して返らない。
空に決して声が届かぬように。
それを知って、それでも彼は空を見上げる。
空色の空。Sky blue sky。
空の果てには楽園があって。そして、其処では善き人々が、哀しむことなく苦しむことなく、笑顔で暮しているのだと言う。
「そう、お前は行っちまった――――・・・」
少年は呟く。
彼女にはその資格がきっとあるのだから。空の上の楽園で、幸せそうに笑う、資格が。
少年は届かぬ視線を地上へ引きおろす。空には決して昇れぬ己と、そして彼の傍らに倒れたままの少女の抜け殻に。
空を映して心は空。彼女の心は空へ昇り、そして残ったのは薄墨の影。
倒れた少女に目を向けたまま、少年は心の空に思い浮かべる。
・・・・・・・・・・そう。
雲ひとつない青く澄んだ空の果てに、少女は幸せそうに笑っているのだ。
地上の人間に彼女の姿は見えない。ただ、その影だけが地上に映っている。
それが、目の前の少女。触れられない薄墨。そんな優しい御伽噺。
「だから、お前は今、幸せだよな――――――・・・?」
少女から目を引き剥がし、少年は再び空をふり仰いだ。
でなければ涙が零れそうだった。そう、思えたのも、一瞬だけで。
少年の瞳は乾いたまま。彼もやはり壊れているのだということを証明するように。
Sky blue sky。少年の嘘と幻影を抱いて。
空は、ただ青い。
≪ END ≫
高校時代テスト期間中、凪さんが描いてくれた絵が元ネタ。