ほどけてしまったのだ。


確かに繋いで手の平が、ふとした拍子に離れてしまったときのように。
なんの、前触れもなく、危ういと、思ったときにはすでに手遅れで。

しゅるり、はらり、柔らかな布の蝶が堕ちる。蝶の姿すら失って地にのたくる白は哀れと言えば哀れだったが、もはやそんなものにかかずらっていられる余裕は私にはなかった。



ほどけてしまったのだ。





さらり、鼓膜どころか胸のうちさえざわめかせる微かな音と共に、黒髪が解けた。
やけにゆっくりと、斜陽の淡い光すらはじき、目に焼き付くような黒が。
そして刹那。
真に焼き付いたのは、その奥、首筋の


白。





( 嗚呼 )




ほどけてしまった。
唇を噛むことすらできず私は呟く。
ほどけてしまったのは私の思考でもあった。私の想いでもあった。一度拘束からのがれた想いは千々に乱れ乱れ、一度揺れると、それきりさらりとまとまった黒髪とは対象的だ。
思い知る。私は目の前の存在とあまりにも違う。


私の愚かな想いも知らず、目の前の頭が小さく傾ぐ。
さらさら、更々。
揺れる髪に不思議そうに。


ほどけたのが手なら、繋ぎなおせた。
柔らかな布なら、結びなおせた。
なら
なら、私のほどけた心は。想いは。理性は。









視界の端に見慣れすぎた手が延びる。



その髪に触れる手を、私はとめられなかった。

 

 

 


035:髪の長い女




耽美系?雰囲気重視。

お題はわりと無理矢理。