「全部この自販機みたいだったら良いのにねえ」

「はあ?」

 

ベンチに座ったまま寝ぼけた事を言った私に、今まさに自販機のボタンを押した友人はやはりとぼけた声を返してきた。

 

「だからぁ」

・・・ガシャン

取り出し口からコーヒーを取り出す、彼女を横目に見ながら

 

「そんな風に、きちんと等価の物を入れれば、きちんと欲しいものが手に入るようなら良いのに、と思って。」

「たとえば?」

「だって、いくら時間をかけても100点を取れないテストもあるし」

「やまカンだけで80いくテストもあるけどね」

「いくら世話しても、うちの猫は懐いてくれないし」

「いくら愛情そそいでも、子供はこんなんだしねえ」

「いくらこっちが好きでも、相手が好きになってくれるとは限らないし」

「――――ああ。そういうこと」

缶を振りながらベンチに近づいてきた彼女と入れ替わるように、私は立った。

 

「まあ世の中って不条理なもんよぉ?」

微妙な慰めの言葉を聞き流しながら、硬貨を入れる。

ココアは売り切れだった。世界はどこまでも私に冷たい。

白くくもる溜息をつきながら、ミルクティーのボタンを押した。

 

・・・ガシャン

 

取り出し口に手を突っ込む。温かい感触。手のひらを、焼くような。

取り出す。

 

「ああ・・・本当、世の中って不条理なもんね」

微かに首をかしげた彼女と目があった。

 

私の手の中には、温かいココアの缶があった。

031:ベンディングマシーン