024:ガムテープ
※やはりカニバシリーズ。百の御題より。
首を傾げる、ということすら重労働になる場合がある。例えば、腕と足と胴体の自由がきかず、重力に極めて従順に平伏している場合。後頭部と両肩に感じる地面の硬さに早々に首から上の動きを諦めて、代わりに少年は吐息まじりの問いを吐いた。
「なあ、何で俺はこんな目にあってるんだ?」
疲労より達観がより多く含まれたその声に、長い黒鉄色の髪の少女はさらり、いとも容易く首を傾げ。
「こんな目、とは・・・全身をガムテープで梱包され、マグロのように転がっている様を指すのか?」
「的確な状況説明ありがとよ。ああまったくもって過不足その通りだよ。
・・・もしかしなくても、お前がやったんだよな?」
「無論だ。」
間髪いれずに返ってくる答えに、幸は頭を抱えた。両手は使えないため、心の中で。
「心底何やってんだお前・・・。」
「一生に一度くらいこんな経験があってもいいだろう?」
「ほお、じゃー今度お前にやってやろうか?」
ぎりぎり、歯軋り共にきしり出された言葉に
「・・・変態。」
仮面のような無表情のまま放たれた、あんまりといえばあんまりな言葉に、それなりに丈夫なはずの彼の堪忍袋の緒は実に見事にぶっちりと切れた。
「ッ、誰が変態だ誰がッ!?
ってか一体何がしたいんだよお前はァっ!!」
転がされたまま故か、微妙に掠れたその絶叫に、彼女はとりあえず手っ取り早く行動で答えを示してみた。
「―――・・・ “ いただきます”。 」
パンッ、と手を合わせ、ガムテープに巻かれて転がっている幸の前に行儀よく正座する。
そして――――・・・
「おいっ、ちょっ、待っ・・!マジかよ、麻酔してないだろ!ニルバーナッ!!待てっ!伏せっ!おかわりっ!
わき腹はやめてくれ・・・って
ギャアアァァ――――・・・ッ!!!!」
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後日、彼女の主張。
「・・・腕は飽きたんだ。」
とりあえず彼はすぐさまその凶悪な口をガムテープで塞いでみた。
くだらなくも命懸けな日常。(止血もガムテープ)