欲しいものはたしかにそこにあったはずなのに。
「何処に行くの?」
「何処かへ。」
「何のために?」
「君のために。」
「・・・・あたしは、此処にいるのに。」
ああ、なぜその涙に気付かなかったのか。
異国の音楽に身を委ね、ただ過去だけは甘く。
まとわりつく香の香りが、頭の芯を淀ませる。
青い海を越えて。緑の地面を越えて。僕がほしかったのは、なんだったのか。
白い花を見るたびに、思い出しそうになるそれは、徐々に白くなってゆく視界にしだいに
溶け 消え て―――――
鐘の音に目を覚ますのにももう慣れた。
潮の香りと異国の香り。
聞いた事のない音楽は、郷愁を誘ってやまず。
白い視界は徐々に狭まり。
「何処に行くの?」
「何処かへ。」
「誰のために?」
「君のために。」
欲しい者は其処にあったのに。
もう帰れない、と思う。
哀しい白い花が咲ききる前に、きっとこの視界は白に埋め尽くされてしまうから。
異国の楽の音が郷愁を誘う。風の音の囁きは優しくない。
空さえも僕の生まれた地とは違う。
愚かな僕を君は笑うだろうか。